ワールドカップとスラムダンクの奇跡的なリンクには仕掛け人がいるのか?

2023年8月31日をもって全国での上映を終了した映画「THE FIRST SLAMDUNK」。すでに多くのファンが“ロス”に突入している中、同年9月2日までにワールドカップの全日程を終了した男子バスケットボール日本代表は実に48年ぶりとなる、オリンピック(2024年パリ開催)へ自力出場権を獲得しました。

対フィンランド、対ベネズエラと大逆転勝利を演じ、対カーボベルデ戦で勝利して文句なしのアジアNo,1の地位を得た今回の男子バスケットボール日本代表の活躍は、NBAで活躍する渡邊雄太選手をはじめとする、一芸に秀でた選手たちで構成される最高のチームを作り上げた指揮官の采配もとより、沖縄アリーナでのホームゲームのアドバンテージが大きな要因のひとつであることは言うまでもありません。

一部、ネタバレを挟む記事となりますことを先に申し上げておきますが、「THE FIRST SLAMDUNK」の主人公となった宮城リョータの地元が沖縄県であり、映画の冒頭は沖縄の公園コートからはじまります。

この記事では、劇的な幕切れとなったワールドカップと、惜しまれて上映を終了したTHE FIRST SLAMDUNK。この2つの奇跡的なリンクについて考えていきたいと思います。

奇跡的な6つのリンクを勝手に考察

【その1】宮城リョータの地元と、ワールドカップの開催地

宮城リョータは、スラムダンクに登場する湘北高校バスケ部の主要メンバーで身長は168センチとバスケにおいては低く、ポジションはポイントガードです。原作漫画スラムダンクでは、彼の人となりを深掘りするタイミングが他の選手に比べて少なく、映画化のタイミングで彼を主人公にすることになったそうです。

映画公開後に、作者でありTHE FIRST SLAMDUNKの監督も務めた井上雄彦先生が語ったのは驚きの事実でした。宮城リョータが沖縄にバックボーンを持つことは、原作当初から決まっていたというのです。※COURT SIDE in THEATER FINALにて

沖縄県に多い苗字の「宮城」、そして身長が低いが身体能力に長けているという、これまでの沖縄県のバスケットボールの特徴を写すリョータの設定は、確かに納得の行くところです。

この話が本当だとすれば、スラムダンクが週刊少年ジャンプで連載された1990年〜1996年の間、宮城リョータの登場は第50話「遅れてきた男」からですが、地元の設定が沖縄県であることが事実だとしても、30年の時を経て宮城が主人公となった映画THE FIRST SLAMDUNKの、ロングランの先に開催されたワールドカップの舞台が沖縄県になることは誰が想像できるでしょうか?

【その2】上映終了のタイミング

THE FIRST SLAMDUNKは2022年12月3日に上映をスタートして、2023年8月31日までの9ヶ月間のロングラン、興行収入は157億円(歴代13位)を記録しました。これまで、スポーツを題材にした映画がこれだけのロングラン、興行収入を記録することがあったでしょうか?驚きの記録です。

ここで考えたいのは、上映終了のタイミングです。ワールドカップの開催期間、日本がベネズエラとの激闘の末に逆転勝利をおさめた、このタイミングです。ロングランになることを予測できていた人は少ないと思いますし、何より動員数の増減で上映終了が決まると考えられるので、このタイミングは奇跡的なのではないでしょうか?

【その3】湘北高校のスタメン

湘北高校のスターティング5は、宮城リョータ(PG)・三井寿(SG)・流川楓(F)・桜木花道(PF)・赤木剛憲(C)で、それぞれに得手不得手があり、個性的な構成をしています。

今回選出された男子バスケットボール日本代表のメンバーは、まさに湘北高校を連想させるようなチームでした。冨樫(168センチ)・河村(172センチ)、両選手ともに身長の低いポイントガードが起用されました。これまでの代表戦では、世界と戦うためにもポイントガードでも身長を担保にすることが多かったのです。しかし、トム・ホーバスヘッドコーチは日本の良さを最大限に引き出すための采配に出ます。

冨永選手は三井寿を彷彿とさせる3ポイントシュートを魅せてくれました。まだ大学生の彼の今後に注目ですね。対ベネズエラ戦の比江島選手も、同様の活躍で会場を沸かせてくれました。

渡邊選手はオールラウンドに活躍する流川楓、川真田選手はリバウンドやディフェンスで貢献し「リアル桜木花道」と評されていますし、ホーキンソン選手はインサイドを支えてくれた大黒柱として、赤木剛憲をイメージできます。

もちろん、スラムダンクの登場人物よりもプレーの幅は大きく、スキルも上なのが今回の日本代表なのは言うまでもないですが、ワールドカップの選手陣がここまで漫画の登場人物とリンクするのは奇跡としか言いようがありません。

【その4】ユニフォームカラー

代表のユニフォームは日本の国旗のカラーが「赤」と「白」に由来しているからだと思いますが、湘北高校のユニフォームカラーも似ていて、「赤」「黒」「白」です。特にアウェーのユニフォームカラーは日本代表とほぼ同じ配色であり、今回のワールドカップを戦う日本を観ながら、「めちゃくちゃ湘北だな」と思っていたのは私だけではないはずです。

【その5】対山王工業戦と、対フィンランド戦

8月27日に実施された日本代表 対 フィンランド代表。日本がヨーロッパ勢から初めて(史上初)勝利を飾った記念すべき試合となりました。第4クウォーターで大逆転劇を演じたこの試合は、THE FIRST SLAMDUNKの対山王工業戦を観ているようなゲーム展開でした。

序盤に演じた互角の展開

第1Q、FIBAランキング24位と格上のフィンランド相手にリードを奪いながら、ほぼ互角の展開で試合が進みます。(日本は36位)終了時には22-15で第2Qにつなぎます。

スラムダンクでは、負けなしの王者山王工業を相手に宮城、桜木で”奇襲”をしかけたり、三井のスリーポイントが当たっていたり、桜木の奇跡的な顔面シュートなどがあり、前半は互角な展開となっています。

第2Q~第3Qでフィンランドが本領発揮

立ち上がりから日本はミスが目立ち、フィンランドに流れをもっていかれます。フリースローを決めきれない日本に対して、フィンランドは安定的に得点を重ねて早々に逆転に成功。日本も喰らいつき我慢の展開になりますが、第2Qのスコアは14-31。フィンランドが本領を発揮します。10点差をつけられます。

そして、第3Q残り3分37秒の時点で71-53とフィンランドが差を広げていきます。

スラムダンクでは、後半開始早々に山王工業がオールコートゾーンプレスを仕掛けてきます。プレスに対応できない湘北高校は一気に点差を広げられます。

大差を埋める連続スリーポイント

一時は18点差をつけられた日本。バスケは20点差をつけると安全圏(このままいけば勝てるだろうと予測できる状態)と言われています。絶望の淵に立った第3Q残り3分から日本は反撃を開始します。富永選手の3ポイントシュートを皮切りに、第3Q終了間際には馬場選手の3Pで10点差まで追い上げたのです。流れが日本に動きリズムに乗らないフィンランドとの差が徐々に縮まります。

スラムダンクでは湘北高校が1度、2度と山王工業に大差をつけられるシーンがありますが、三井寿のスリーポイントシュートで追いついていきます。

富永選手が獲得したアンスポーツマンライクファウル

この日、3ポイントシュートにおいて57.1%スタッツを残した富永選手は第4Q、フラストレーションをためているフィンランドがターンオーバー(シュートを打たずに攻撃が終わること)時にアンスポーツマンライクファウルを獲得します。

山王戦で宮城リョータが、マッチアップする深津からインテンショナルファウル(現在のアンスポ)を獲得したシーンとリンクしました。

河村選手のAND1で逆転に成功、1点差となる

残り5分を切って76-78の2点差、ポイントガードの河村選手がゴールへペネトレイト、思わず相手チームディフェンスがファウル。レイアップシュートはそのままゴールで吸い込まれ、カウントワンスロー。河村選手はこのフリースローも決めて、79-78とついに逆転に成功します。

スラムダンクでは試合終盤、71-76湘北高校ビハインドの状況で、三井寿が決めた執念の3ポイントシュート+アンドワンスローのシーンが蘇ります。松本のファウルを誘ったこのプレーで湘北は75-76と1点差まで山王を追い詰めます。

シーンとしては違いますが、スコア感と、そのタイミングでのAND1という部分において非常にリンクしている状況と言えます。ちなみに、対山王工業との最終スコアは79-78で湘北高校の勝利です。ちょっと鳥肌立ちますよね。

【その6】スラムダンク単行本第9巻のコメント

こちらXなどで話題に上がっている、原作スラムダンクの単行本第9巻に記載されている井上雄彦先生のコメント。間違いなく、未来を描いてコメントなさっているものですが、衝撃的ではありませんか?

“”「スラムダンク」を始めたころ、思い描いていた願望が2つ叶いました。1つは取材と称してNBAのファイナルをアメリカに見に行くこと。もう1つはバルセロナ五輪を、これも取材と称して生で見ること。大変感謝しています。
次は日本チームの五輪出場が見たい。「スラムダンクを読んでバスケを始めたという子供たちが、大きくなってやってくれたら・・・・・・・・オレは泣くぞ。」””

引用:単行本スラムダンク9巻より

今回の日本代表の中で、スラムダンクがきっかけでバスケを始めた選手は世代的に少ないと思いますが、映画「THE FIRST SLAMDUNK」の公開で30年越しに「スラムダンクを見てバスケを始めた」小学生・中学生が増えています。そう考えると未来が楽しみでなりません。

まとめ

さて、この奇跡的なリンクには、「仕掛け人」が存在するのでしょうか?

いるとすれば、井上雄彦先生ではないと思います。バスケットボールの神様がくれた、すべてのバスケファン、スラダンファンへのプレゼントなのでしょうね。