「鎌倉市内の公立小学校の学童へのSLAM DUNK全巻寄贈」をはじめ、独自の活動を続ける鎌倉バスケットボールアカデミー(KBA)の代表・天野 由一さんに、スクール設立の背景や、育成年代における怪我への想い、そして鎌倉のバスケ環境を変える今後のビジョンについてお聞きしました。
天野:私自身は、バスケの競技歴としては中学校と高校の6年間です。中学校と高校のバスケ部に所属していましたが、どちらも県大会に届かないような弱いチームで、私自身もずっとベンチを温めているような選手でした。
バスケを始めたきっかけは、中学1年の夏休みに『SLAM DUNK』の再放送を見たことです。それまでは実家が自営業で塾をやっていたこともあり、土日も含めて週のほとんどが塾で、スポーツを習った経験がありませんでした。そのため運動がすごく苦手だったのですが、漫画に影響されて思い切って飛び込んだのが私のルーツです。
その後、アスレティックトレーナーの専門学校を卒業し、スポーツクラブでの勤務やパーソナルトレーナーを経て、2012年10月に現在のスクールの前身となる活動をスタート。現在は小学生対象のスクール・チーム、そして中学生のクラブチーム(U-15グリズリーズ)を運営しています。
天野:大きなきっかけは、自分自身が学生時代に繰り返した「怪我」と、当時の指導環境への違和感です。中学でバスケを始めてすぐ怪我をしてしまい、治ってはまた怪我をするの繰り返しでした。当時は「サボっている」と言われたり、先生に相談しても「怪我なら休め」と言われるだけで、具体的な解決策はありませんでした。
「怪我をしないためにはどうすればいいのか」「怪我をしたときに寄り添ってくれる大人はいないのか」という疑問からスポーツトレーナーに興味を持ち、専門学校へ進学しました。しかし、そこで気づいたのは、アスレティックトレーナーの需要はプロや実業団ばかりで、本当に正しい知識やケアが必要な「成長途中の子供たちの現場」には専門家がほとんどいないという厳しい現実でした。
卒業後、地元のバスケ仲間から「小学校の体育館を借りて何かやらないか」と声をかけてもらったことを機に、NPO法人の立ち上げに参画。子供たちの怪我をしない体作りと、バスケを通じた運動能力向上をサポートしたいという想いでスクールを設立しました。最初はクチコミとポスターを頼りに、1回300円の体験から手探りでスタートしました。
また、この活動を本格化していく上で欠かせない存在が、白井トレーナーです。彼は私の専門学生時代からの友人であり、同時に師でもある人物。彼は相模原が地元なのですが、KBAの展開や私の想いに合わせて鎌倉市に引っ越してきてくれて、さらに接骨院もこちらで開業してくれました。彼のような信頼できる専門家がバディとして街に根を張ってくれたからこそ、子どもたちに本当に必要なケアを届ける体制が整いました。
天野:一番のやり甲斐は、やはり保護者の方から「子供が楽しんでいます」と言っていただけることや、子供たちが純粋に笑顔を見せてくれることです。また、3ヶ月に1回開催している「アカデミーカップ」で、子供たちが必死にボールを追いかけ、劇的なシュートに全員で喜び、それをご家族が楽しそうに応援してくれている空間を見るときも最高にやり甲斐を感じます。
トレーナーの視点から言えば、卒業した子が中学の部活などで怪我をした際に、再び当クラブを頼ってケアや相談にきてくれたときも、これまで伝えてきたことが生きていると実感できます。ミニバスの厳しい環境で一度バスケが嫌になりかけた子が、うちに来て「ここならプレッシャーなく楽しめる」と笑顔を取り戻し、そのまま競技を続けてくれるケースも多く、最高のモチベーションになっています。
一方で苦労したのは、立ち上げ当初に人が集まらなかった時期の活気のなさや、認知度が上がってきてからの周囲との関係性です。当クラブは公式戦を戦う連盟(ミニバス)に登録していないため、最初は「新しいチームができて子供を取られるのではないか」と、近隣のチームから誤解や警戒をされることも少なくありませんでした。
私たちは決して子供を奪い合うのではない、あくまで部活やミニバスにプラスして個人の技術を伸ばす場所、あるいは初心者でも気軽に集まれる場所として環境を作っているのだということを、根気強く伝えていく必要がありました。
KBAでは、小学生対象の「キンダー&キッズクラス(年中〜小学3年生)」「ベーシッククラス(小学4〜6年生)」「アドバンスクラス(小学4〜6年生)」、そして中学生のクラブチーム「U-15グリズリーズ」という形で、年代やレベルに応じたクラスを展開しています。
クラブ全体の特徴として、指導は私(天野)と木田コーチ、野崎コーチ、白井トレーナーが中心となり、カテゴリーの枠を超えて全体をしっかりと見ています。コーチ陣の間で明確に役割分担をしており、主に私がフィジカルやウエイト、ジャンプ、走りのトレーニングを担当し、専任の木田コーチが戦術やスキルを教え込んでいます。
小学生の練習においては「バスケの戦術は3割、残りの7割はすべて体作り」に時間を充て、柔軟性やコーディネーション能力の向上を最優先しています。目先の勝利よりも、まずは怪我をしないための徹底した体作りと、バスケの楽しさを体感してもらうことを重視しているからです。そして中学生(U-15グリズリーズ)では、「卒業後にどこの高校へ進学しても、即戦力として貢献できるプレイヤーを育てること」を絶対的なゴールに掲げ、身体能力、バスケの深い理解度、状態を自分で判断して周りとコミュニケーションが取れる主体性を3年間で培います。
また、金曜日のスクールでは、全国大会経験者であり岩手県の盛岡南高校出身のモリモリコーチを隔週でお呼びしています。「やらされる練習」ではなく、ボールハンドリングの遊びを通じて子供たちが自発的に夢中になり、気づけば劇的に成長している、そんな環境作りを大切にしています。
天野:私には、設立当初から掲げている明確なビジョンがあります。それは、「鎌倉市内のすべての公立小学校に、子供たちが自分の足や自転車で通えるバスケットの環境(スクール)を作ること」です。
鎌倉は土地が狭い割に交通のアクセスが難しく、親御さんの送迎の有無によって子供がスポーツを続けられるかどうかが左右されがちです。直近では第二小学校での活動もスタートさせましたが、既存のミニバスがないエリアを中心に、学校帰りに誰もが気軽にバスケを選べる環境を整えていきたいです。大人が環境を作ってこなかったことが、鎌倉のバスケ人口やレベルの停滞に繋がっていると考えているからです。
その一環として、少しでもバスケに興味を持つ子を増やすため、鎌倉市内の公立小学校の学童へ『SLAM DUNK』を全巻寄贈する活動も行いました。かつての僕自身がそうだったように、漫画や映画からバスケの楽しさを知るきっかけになればと願っています。
U-15のクラブとしては、2025年の「U15クラブバスケットボールゲームス(通称:全クラ)神奈川予選」で強豪クラブを相手にスカウティングを重ね、延長戦の末に破って3位という成績を残すことができました。かつてうちのクラブの初期に在籍し、その後他チームへ移籍していった卒業生たちが、県トップチームのキャプテンや主力メンバーとして神奈川を制覇している姿を見るのも、寂しさはありますが私たちの育成の成果だと考えています。
勝利至上主義で人を寄せ集めるのではない、集まったメンバーで1から強いチームを作る. 形成されたチームを通じて、定期的に日本代表アシスタントコーチなどの外部講師を鎌倉に招き、近隣の中学の先生や指導者の方々とも知識を共有していく。その積み重ねの先に、「神奈川、そして全国から鎌倉へバスケットを学びに来る」、そんな新しいバスケの文化をこの街に定着させたいと思っています。